きねぞう

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映画評:【ランゴリアーズ】小説を読んでいるような面白さ

 

ロサンゼルスからボストンへ向かう、アメリカン・プライド航空の旅客機。熟睡していた10人を残して、乗員乗客が忽然と消えてしまう。外部への連絡も絶たれ騒然となる機内。偶然にも乗客として居合わせた同航空のブライアン機長の機転により、旅客機はメイン州の空港へと無事着陸する。しかし、そこにも人影はなく、謎は深まってゆくばかり。やがて、すべてを食らい尽くしてしまう怪物ランゴリアーズの気配が忍び寄り……。

 

スティーブン・キングの小説を映像化した本作であるが、実は劇場公開はされていない。正確には米国ABC放送によって製作された3時間のテレビドラマである。しかし、一つの作品として見事に完結している本作は充分映画の規格を満たしており、映画作品という位置付けで評価されている。

 

乗客が消失した旅客機というシュチエーション、やがて襲い掛かる謎の怪物など、パニックアクションとして非常にキャッチーなアウトライン。しかし、中身は異常事態に巻き込まれた10人が織りなす人間ドラマであり、プレステ1かと思うようなチープなCGが使われている所なども含めて、派手な作品では決してない。タイトルにもなっている怪物・ランゴリアーズは、物語の終盤にしかその姿を現さないのだ。

本作の醍醐味は、乗客たちが謎に対して様々な仮説を立て、検証や試行錯誤を繰り返してゆく過程そのものであり、長尺を贅沢に駆使した、登場人物たちの何気ないやりとりや心の動きに焦点に当てた点にある。それは、執拗に日常生活や人物を描写し、次第にその日常に怪異を持ち込んでゆく原作者キングの技巧に通ずるものがある。登場人物たちの言動がモタモタしているため「もっとキビキビ行動しろよ!」と急かしたくなる場面はいくつもあるのだが。

乗客10人も、基本的には普通の人たちであり、異常事態に等身大で立ち向かってゆく姿は非常に感情移入がしやすい。クライマックスのある大きな決断や、失われてしまったものを再び取り返してゆく一連の感動は、この手のスリラー作品にはなかなかない面白さであり、突っ込みどころは非常に多い所も確かなのだが、どうしても心を掴んで離さない魅力がある。

 

仮にハリウッドがこの作品をリメイクしたとしたら……。映画としての質は間違いなくグレードアップするだろう。しかし、よくあるパニックムービーが出来上がってしまうだけで、この作品全体に漂う空気感は消えてしまう気がする。それはきっと、キングの小説を読んでいるあの感じ、なのだと僕は思う。キングのホラー小説は、いわばヨタ話なのだ。ヨタ話なのに、ぐいぐい読ませてしまう。リアリティを感じる、感情移入してしまう。その魅力の片鱗を、本作は受け継いでいるのではないか……。

 

78点