きねぞう

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映画評:【ぼくたちの家族】とっくにこの家族なんてぶっ壊れてんだ。

 

物忘れの激しい母・玲子は検査のために病院へと連れられるが、そこで末期の脳腫瘍と診断されてしまう。

余命一週間とまで宣告され、父と二人の兄弟は騒然。母の突然の病によって、隠されていた家族の問題が浮き彫りになっていき……。

 

早見和真の自伝的小説「砂上のファンファーレ」を映画化。突然の母の病によって翻弄される父と二人の兄弟の、繊細な家族模様を描いています。母の脳腫瘍が見つかり、今までバラバラになっていた家族が一つにまとまる、という簡単な話にはなってくれません。むしろ、表面上は保っていた家族の均衡が崩れていく。病室で母の病名を告げられるシーンが秀逸ですね。宣告によって、日常から非日常へと突き落とされる訳ですが、「余命一週間」というあまりにも唐突なリミットで、むしろ現実味がありません。途方に暮れる一方でじわじわと絶望が湧き出すこの場面は、尋常でない事態が既に進行しているのに、状況を把握しきれない奇妙な距離感を上手く捉えています。

物語は基本的に、妻夫木聡演じる、兄の浩介の視点によって描かれます。浩介は引きこもりだった過去を持ちながらも、会社に勤めて結婚し、妻との間に新しい命を授かるなど、人並みの家庭を築き、一人の社会人として自立していました。しかし、母が入院すると、借金まみれの父と、穀潰し同然の弟と力を合わせて、この困難を乗り切らなければなりません。父と弟のズレた思考や頼りなささが苛立ちを募らせ、借金や医療費の資金繰りに悩まされ、味方である筈の妻も理解されず、やがて浩介は、無力だった少年時代に逆戻りするかのように、次第に追い詰められていきます。特筆すべきは弟を演じる池松壮亮の演技力でしょう。何かを成し遂げた訳でもなく、母親に金ばかりたかるくせに、どこか斜に構えて悟ったような言動は、同年代の俳優・染谷将太とはまた違った、ぶん殴りたくなる演技でしょう。

 

86点