きねぞう

映画の感想や関連記事を載せていくブログです。

映画評:【銀の匙 Silver Spoon】どこに出しても恥ずかしくない、青春映画の傑作

 

進学校での激しい学力競争に挫折した八軒勇吾は、厳格な父の元から逃れるため、都会の札幌から離れて、寮制の大蝦夷農業高等学校(通称エゾノー)に進学する。初めて経験する過酷な酪農の世界に、勇吾は悪戦苦闘の日々を送るが……。

 

荒川弘の同名コミックを映画化。農業高校で成長していく少年たちを描きます。厳しい社会競争の中で、どうやって「生き抜き」また自分の納得する「生き方」を見つけていくか、という問いを常に映画的に描き出すことに見事に成功しており、映画の組み立て方として“異常”とも言える完成度を誇ります。

僕は原作漫画を読んでませんでしたが、それは個人的に「酪農世界のこちら側に対する上から目線」のような物を感じていて、敬遠していたからです。ところが物語内においても、素人である主人公は最初、酪農の世界にカルチャーギャップ以上の疎外感を感じており、それが見事に主人公への感情移入を注ぐ機能を果たしてくれました。作中には実際に「銀の匙」が物語を象徴する存在として登場します。欧米では、新生児の幸運のシンボルとして銀の匙を出産祝いに贈られる風習があるそうです。それは、初めての食事を銀の匙で食べると、一生食べることに困らないという伝承に基づいています。過酷な酪農の世界では、とにかく生き抜くこと、食べていけることに対する強い“願い”がある。映画の最後、様々な学びを得て成長した主人公が、新しい生命にその“願い”を託し、タイトルへと繋がるラストには鳥肌が立ちました。主人公が成長し、それが周りにポジティブな影響を与え、さらにそれが次の展開へと繋がっていくという、伏線回収にも余念がありません。これだけ映画の構成として無駄がないことを鑑みると、僕は監督である吉田恵輔という才能に末恐ろしさすら覚えました。どこに出しても恥ずかしくない、青春映画の傑作ですね。

 

85点