きねぞう

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映画評:10代少女の無敵感【さんかく】

 

こんにちは。

杵蔵(きねぞう)です。

 

今回の作品はこちらです。

 

 

さんかく

制作:2010年/日本

監督:吉田恵輔

出演:高岡蒼甫

  :田畑智子

  :小野恵令奈

  :矢沢心

  :大島優子

rating:85点

 

 

ストーリー

同棲して二年が経つ百瀬と佳代のカップルは、付き合いたての新鮮味を失ったまま、マンネリ化した状態が続いていた。ある日、佳代の妹である中学生の桃が、夏休みを利用して、二人の住むマンションに遊びに来るが……。

 

レビュー

百瀬・佳代・桃の三角関係を巡って、奇妙で繊細な人間模様をユーモラスに描く傑作。

 

監督は、面白い映画しか撮らない男、吉田恵輔です。

「日本映画で、いまどんな監督がキテるか?」という質問に対し、

 

「是枝正和」と答える人も居るでしょうし、

「吉田大八」と答える人も居るでしょう。

 

しかし、私は圧倒的に吉田恵輔監督を推したい。

本物の天才なのです。

 

彼の撮る映画は、とにかく脚本がべらぼうに上手い、そして、映像で説得力を持たせる映画的な快感に満ちています。

 

倦怠期を迎えたカップルに、突如、彼女の妹・桃がやってくる。15歳といえども大人になりつつある桃の蠱惑的な振る舞いに、百瀬の中に複雑な気持ちが芽生え始め、彼女に次第に翻弄されていく。吉田監督の見事な手腕によって、小野恵令奈演じる桃が魅力的に描かれており、ちょっとだらしない彼氏が、少女に惹かれていく過程に、凄まじい説得力を持たせています。

まずこの桃という少女が、男性に対して、非常に無防備というか、適切な距離感を持っていない。それが天然であるか計算であるか、映画から完全に判断するのは難しいですが、おそらく前者ですね。下着同然の格好でうろうろしたりするのもそうですが、彼女自身のどこか視点の定まっていない、ぼーっとした、いわゆる「頭の足らない」感じが伝わってくる。ところが、身体は成熟した女性へとなりつつあるから、そのミスマッチさが余計にコケティッシュに映ります。

十代の少女というのは、その若さゆえに、それだけで「敵なし」であり、佳代に代表される大人の女性たちにとって、非常に残酷な存在なのは間違いないです。集団で歩いている女子高生たちのアタシラ無敵感は尋常じゃない。今、この日本で一番肩で風を切って歩いているのはJKなのです。何よりも厄介なのは、少女たち自身も、その価値を自覚し、その重要性をシビアに認識していること(桃は例外かもしれませんが)。

若さを何よりもありがたがる現代の日本にとって、その存在は脅威と言えますね。

そんな桃に年甲斐もなくハートブレイクする百瀬の心境が、手に取るように読み取れる所が素晴らしいですね。言外に読み取れるニュアンス、空気感がひしひしと伝わってきます。

 

百瀬と佳代が喧嘩するのですが

「じゃぁなんだ、別れるのかよ?」

「……じゃぁ別れるよ」

「わかった」

「えっ、やだよ」

「やだじゃないよ」

この、別れる方に仕向ける持っていき方、言質をとったとばかりに別れを強硬に主張する百瀬が非常に狡猾です。

 

佳代と別れることに成功しますが、百瀬が思っていた以上に佳代は彼に執着があり、彼女はストーカーへと変貌していきます。このストーカー描写が滅茶苦茶怖いです「えっ、ほんのりした恋愛映画だと思ってたし、今までこの映画こんなテンションじゃなかったのに……」と、観客を突き放すようにガラリと物語のカラーを変えるのが、吉田恵輔監督の作風でもありますね。

ゆるい恋愛映画だと思ってみると度肝を抜かれる、珠玉の一作です。

ではまた。