きねぞう

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映画評:原田泰造の好演むなしく【ミッドナイト・バス】

 

こんにちは。

杵蔵(きねぞう)です。

 

なんとく劇場で観てしまいました。

 

 

 

ミッドナイト・バス

製作:2018年/日本

監督:竹下 昌男

出演:原田泰造

  :山本未來

  :小西真奈美

  :葵わかな

  :七瀬公

rating:60点

 

 

ストーリー

主人公の高宮利一は、東京での仕事を辞め、故郷の新潟と東京間を往復する長距離深夜バスの運転士として働いていた。ある日、離婚した元妻の美雪が偶然バスに乗っていたことから二人は再会するが……。

 

レビュー

なんとも薄味な映画でした。

映画全編がのっぺりとしていて、盛り上がりに欠けています。

といっても、私は物語の起伏が少ない作品全般が悪いと言いたい訳ではありません。中には、劇的な展開や分かりやすい娯楽性がなくとも、映画として成立している作品は沢山あります。そういう映画だって私も好きです。本作もその方向を目指しては居るのでしょうが、それが上手くいっていない。そういう印象を受けました。

原田泰造演じる主人公の利一は、新潟と東京を往復する高速バスの運転手。バツイチですが、小西真奈美演じる東京の恋人とは結婚しそうな雰囲気。二人の子供も既に成人しており、家族はそれぞれ独立して生きています。そして元妻との再会から、離れていた家族が新潟に集まり、かつて失ってしまったものを取り戻していく、というのが物語の主なあらすじ。

 

見所としては、利一の父性と男性を行き交う心のゆらぎ。のはずなのですが、それが効果的に描写できていないんですよ。新潟では父親、東京では男性、という属性を使い分けている様子がないんです。利一は常に淡々としており、行動も受け身的。話し方も常に一定の距離をとるようなタイプなのですが、それは新潟に居ても東京に居ても変わらない。誰に対しても態度がそんなに変わらないんですよね。だから、二面性みたいなものが浮き上がってこない。だから、葛藤しているように見えても、それがイマイチこちらに伝わってこないんです。ついでに言うと、新潟と東京という舞台の描き方も上手いとは思えない。新潟は何処にでもあるような地方都市といった様にしか見えなくて、新潟ならではの景色の見せ方に乏しいです。せっかく新潟の諸々から協賛を受けているのに勿体無い。

バラバラだった家族がまとまり、学びを得て成長し、ふたたび家族という巣からそれぞれ飛び立っていく、という筋書き自体は悪くない。けれど、家族の皆はそれぞれ、自分でなにがしかのヒントを見つけて解決してしまう。利一と再会したことで変化するんじゃないんですよ。気づいたら勝手に「おれ、やりたいこと見つけたわ」ってな風に利一の元を離れていく。そして利一もそれをボケっと見ているだけなんですよね~。だからヒューマンドラマとして成立していないレベルです。

 

個人的に気になったのは、利一の恋人が経営する定食屋のシーン。なんか知りませんけど、駅のホームのアナウンスがちょいちょい聞こえませんか?最初、映画館の外から聞こえてるのかと錯覚するほどでした。何かの演出のつもりかもしれませんが、一体、何の効果を狙ってのことなんだろう?そして犬。かわいいけどさ、食事を提供する店の中に犬は入れるなよ。

 

それとこの映画、全体的にセリフ回しがです。言いようのない変さに満ちています。なんていうか、登場人物のセリフがいちいちリアリティのない浮いた言葉なんです。例えば「息子はIT企業に勤めておりましたが」なんてセリフ、文章で書くとそんなに気にならないんですけど、これを実際に役者が口に出して言うと、途端に違和感が出てくる。台本が悪いんだと思うんですが、この違和感だらけのセリフのせいで、役者まで大根演技に見えてしまう問題にまで波及しちゃってる。長塚京三のようなベテランの名優でも、この映画だと芝居が下手に見えてしまうんですね。荒唐無稽って程じゃないんですけど、リアルではない。実はこの問題、本作の性質を表しているような気がしまして……。

 

この映画って、どっちつかずなんですよ。緻密なリアリティの積み重ねによる実在感とかがある訳でもなく、かといってケレン味がある訳でもない。どっちにも傾いてくれないんです。利一の娘がローカルアイドルをやっている設定なんですけど、終盤、彼女たちのライブ描写があるのですが、その歌唱シーンが中途半端な長さなんです。もっと短くしてさらっと流すか、あるいはもっと丹念に尺を割いて描くか、どっちかにすればいいのに。「あっ、これ面白くなりそうかも」って思うと、その手前で引き返しちゃう感じですね。だから、単に地味でリアリティのない話になっちゃってる。

 

それでも、一応退屈せずに観終えることができたのは、出演している俳優たちが持つ役者力の賜物。主演の原田泰造をはじめ、「もっとこの人を見ていたい」という画面の支配力はあるから、それに救われた所はあります。

散々文句をたれましたが、そこまで嫌いになれない魅力もあるにはあります。印象的だったのは、娘の彼氏・その両親と会食する場面。エレベーターに中国だが韓国だかの観光客と乗り合わせているんですが、騒がしくしている観光客の一方で、利一たちは所在なく気まずそうに佇んでいる場面はリアルでした。あそこはとても良かったですね。

竹下昌男監督は、まだまだ寡作ですので、これからの作品に期待したい所です。

ではまた。