きねぞう

映画の感想や関連記事を載せていくブログです。

映画評:【若おかみは小学生!】子供からお年寄りまで楽しめる。

 

今年の1月2日。春日太一の「泥沼スクリーン」を読んだ僕は、すぐに劇場で映画が観たくなり、巷で評判のアニメ映画「若おかみは小学生!」を観に行った。

 

足を運んだ劇場は横浜の黄金町にあるシネマジャック&ベティ。名画座に通い詰めたという本の内容に影響されて、昔ながらのミニシアターに行ってみたくなったのだ。我ながら実にわかりやすい性格である。

初めて訪れたその劇場は、料金を払うと、なんと整理券が渡される。お世辞にも綺麗とは言えない、薄暗く狭い館内の廊下。上映を前に、扉の前にもっさりとした行列が並び始める。整理番号の順に沿って呼ばれ、座席につけるというシステムらしい。その日が特別に料金が1,100円だったためか、なかなか賑わっていた。客層はいかにも映画通、といった感じで、勝手がわからない状況も相まって、少し緊張してしまう。が、それには久しく感じたことの無かった、映画を観る前の独特の高揚感に似ていて、それはそれで楽しい時間に違いなかった。

 

さて、作品の内容である。

交通事故で両親を亡くした小学六年生の女の子・おっこ(本名・関織子)。温泉旅館を経営する祖母の家に引き取られるが、そこに住み着いていた幽霊の少年・ウリ坊に頼まれ、旅館の若おかみとして働くことになる。温泉旅館は両親が亡くなってしまったせいで跡取りが見つからず、世代交代に苦慮していたのである。こうしておっこの旅館の跡継ぎとしての修業が始まった。

 

ウリ坊の他に、幽霊の少女・美陽、子鬼の鈴鬼など、周りの人間には見えないし聞こえない不思議な仲間達に励まされながら、持ち前の明るさとガッツで、お客をもてなしていく。

両親が亡くなったのだから、普通ならもっと激しい感情の起伏が出る筈だが、おっこはそれを人前に出さない。というよりも、まだその現実を受け止め切れておらず、両親がまだ生きているのか死んでいるのか、明確な判別を持っていない。夢の中で両親に会い、「なんだ、二人とも生きてたんだ」と安堵する、彼女の微笑んだ寝顔が実にせつない。この辺りは、ウェットな描写にせず実に効果を出していると思う。

 

そして、若おかみとして着実に成長していくおっこであったが、彼女が成長すればするほど、ウリ坊たちの声や姿を、次第に捉えられなくなってゆく。旅館の跡継ぎという悲願が近まるにつれ、彼等の「成仏」も近づいてゆくのか……。

基本的にはコメディタッチな映画なので、こうした悲しみの描写が、少ない場面であってもより強調されてとても良い。最初は虫やヤモリを気味悪がっていたおっこが、後半は何げなくヤモリを手に取っていたりと、安易な説明的セリフを使わずにおっこの成長を描いおり、映画的にもとても良く出来ている。

 

ただ、文句が無い訳ではない。

中盤、お客である占い師の若い女性と知り合う場面とかは、好きになれない。海外を飛び回っているカッコイイお姉さんみたいなキャラなのだが、颯爽とスポーツカーを乗りこなす場面とかを観て、「こういうキャラクターとこういう主人公の掛け合い、なんかもう見飽きたな」と少し辟易してしまった。

あとは、おっこが頑張り屋さん過ぎるという点にもある。勿論、彼女の健気に努力する姿を見て心を打たれる場面もあるのだが、その一方で、ダメな大人の目線から見ると、彼女の献身が聖人じみていて、正直ノレない部分もあるのだ。

 

とはいえ、クライマックス、両親の死を受け入れざるを得ない展開にくると、ぽろぽろ泣いてしまったおっこ、今は、ただのか弱い子供に戻っていいんだ……!」と励ましたくなってしまった。劇場内にもすすり泣く声が広がっていた。

僕が指摘した部分も好みの問題だし、老若男女問わず楽しめるハイクオリティなアニメーションだった。

 

rating:73点