書評:春日太一の【泥沼スクリーン】を読んでみた!
お正月に読む本を探していたら、時代劇研究家・春日太一の新刊が出ていたので読んでみた。結論から言うとすごく面白かった。コタツでぬくぬくしながら読む時間は、最高のひとときだった。
この表紙のイラスト凄く好き。タケウマというイラストレーターが描いているらしく、読み終わった後にこの人の書いたイラストを色々見てしまった。
週刊文春に連載中のコラム「木曜邦画劇場」から93本+書き下ろしの洋画コラムをセレクション。著者の邦画に対する偏愛を語っている。
今まで研究家として常に客観的な立ち位置に居た人が、今回は個人的な映画についての想いを文章にすることに、なかなか苦慮したとのこと。でも、僕としては春日太一の映画観やパーソナリティを知ることができてとても楽しい一冊だった。
時代劇研究家ということもあり、時代劇映画なども数多く取り上げられているが、アニメやサスペンス映画なども意外と紹介されている。世評は決して高くない作品も「欠点は色々ある映画だけど、それでも俺はこの映画が好きなんだ!」とか「出来は悪いんだけど、不思議と嫌いになれない」という、まさに偏愛に満ちたコラム集である。
本の中で著者は自身の暗い青春を振り返り、「映画だけが救いだった、映画だけが自分を慰めてくれた」と述懐する。とても共感する部分が多かった。
文章の書き方についても参考になる所があったと思う。
巻末は、ライムスター宇多丸との対談が掲載されている。映画にまつわる、青春時代の痛い思い出話である。中身は充分面白かったのだが、一方で冷めてしまう自分が居た。
「俺たちには映画しかなかった!」と自虐する二人は、列記としたエリートなのだ。
小さい頃から名画座に通い詰め、名作映画を浴びるほど見続けたシネフィル、いわゆる映画的偏差値がものすごく高い(高学歴だしね)。
「高校の頃、合コンを抜け出して映画を観に行った」みたいなエピソードが出てくるんだけど、もうその時点で「映画しかなかった」はウソでしょ。
「俺達はダメ人間ですよ~みなさんと同じですよ~」という二人の気持ちに偽りは無いのだと思う。けれど、やはりその水準の高さみたいなものを無自覚に振り回されるとこっちとしては面白くない。「裏切者!」と叫びたくなる。やはり、真のボンクラではない。
それでも、やっぱり本書は面白かった。この本を読んで、もっと映画を観たいと思ったし、映画についての文章を書きたくなった。何よりも「周りとかは関係なく、俺はこの映画が好きなの!」と思い切るこの本に背中を押された形で、映画をもっと素直に楽しみ、想いを発信することが出来そうだ。
オススメです!