きねぞう

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映画評:生涯で一番泣いた映画【異人たちとの夏】

こんにちは。

杵蔵(きねぞう)です。

 

今回の作品はこちらです。

 

 

異人たちとの夏

制作:1988年/日本

監督:大林宣彦

出演:風間杜夫

  :片岡鶴太郎

  :秋吉久美子

  :名取裕子

  :永島敏行

rating:85点

 

 

ストーリー

多忙を極めるシナリオライターの原田は、妻子と別れ、マンションの一室で慎ましくもどこか寂しげな生活を送っていた。ある日、同じマンションに住むケイという女性が原田を訪ねてから、彼の日常は崩れ始める。ふと故郷の浅草を訪れた彼の前に現れたのは、かつて少年時代に亡くなったはずの、若き日の両親であった……。

 

レビュー

原作は『ふぞろいの林檎たち』や『ありふれた奇跡』などの脚本家として知られる、山田太一の同名小説。監督は『時をかける少女』や『ねらわれた学園』で知られる大林宣彦。壮年のシナリオライターが邂逅する、白昼夢のような奇妙な日々を描く。

この作品で、私は主演を務める風間杜夫のファンになりました。

彼の、整った几帳面な顔立ちの中で、瞳はどこか幼く、それがどこか表情に陰りを見せて、アンバランスな雰囲気を感じさせます。再会した両親とのやりとりの中で、その佇まいは遺憾なく発揮されています。人生の半ばまで生きてきた彼は、既に亡くなった両親の歳を越してしまっているんです。そんな彼が、「おとうさん、おかあさん」と少年のように顔を綻ばせ、甘える姿がなんとも切ない。

しかし、両親と過ごす時間を重ねていくごとに、彼の身体は衰弱し、生気を失っていく。“この世ならざる者”とは相いれないのか? しかし、それでも彼は両親に会いに行く事をやめられない。

この映画を初めて観たのは学生の時だったと記憶していますが、その時は面白さがサッパリわからなくて、途中で観るのを辞めてしまったんですよ。それからしばらく観る機会がなかったんですが、大人になってから大林宣彦や山田太一の作品に触れることがあり、その素晴らしさを知りまして。それじゃぁこの二人がタッグを組んだこの作品はやっぱり面白いんじゃないかと、ようやく本作を改めて鑑賞してみると……これが大号泣。人生でここまで泣いたのは、この世に生まれた時と、『スーパーダンガンロンパ2』の第五章をクリアした時以来ですよ。

世の中との折り合いを上手くつけられず、不器用に生きざるをえない人々という人物造形は、まさに山田太一の真骨頂ですね。そして、夏の季節に感じる、あの郷愁的な空気はどこからやってくるのでしょう。ノスタルジーの名手である大林監督が、浅草の町並みを魅力的に映し出し、日常にふとしたが入り込んできてもおかしくないような魔術を生み出してくれます。二人の名手の持ち味が生かされた異色の名作です。

所々いびつな所はありますが、それを凌ぐ感動が確かにあります。

ではまた。