きねぞう

映画の感想や関連記事を載せていくブログです。

映画評:みんな大好き【アイアムアヒーロー】を何故、それほど評価できないか。

 

 

こんにちは。

ご無沙汰しておりました。杵蔵(きねぞう)です。

花澤健吾の同名コミックを映画化した「アイアムアヒーロー」がすこぶる評判高く、

私も期待して観に行ったのですが、結果としてはイマイチだと感じました。

 

 

アイアムアヒーロー

製作:2016年/日本

監督:佐藤信介

出演:大泉洋

  :有村架純

  :長澤まさみ

  :吉沢悠

  :岡田義徳

rating:50点

 

 

ストーリー

売れない漫画家、鈴木英雄はアシスタントの仕事に向かう途中、奇異に巻き込まれる。

世界中で蔓延している謎の奇病により、周囲の人々は人間を食らうように暴れだすZQN(ゾンビ)化していた。

生き残ろうと逃げ惑う中、英雄はひょんなことから女子高生の早狩比呂美と行動を共にすることになるが……。

 

レビュー

そもそも、この漫画は、映画という形で魅力を引き出すには、難しい素材だと感じます。

ここでは、最初に原作漫画について触れていきます。

原作「アイアムアヒーロー」第1巻の時点では、はっきりとゾンビディザスターは起きません。

主人公である鈴木英雄の、冴えない漫画家としての生活描写がほとんどを占めており、英雄の内面性であるとか、漫画に対する想いであるとか、恋人の徹子との関係性など、人間ドラマのディティールで埋まっています。所々、ゾンビの影はありますが、それも伏線のような扱いでしか、登場していません。

これは、英雄の生活描写を丹念に描くことで、読者の感情移入及び、漫画の中に、現実的な世界観を作ることを狙ったものと思われます。さらに同時に、ニュースでの報道や、あちこちでの奇妙な現象を挟みこむことで、ゾンビの感染が次第に世界を侵食しているという、静かな恐怖も演出しています。確実に問題は進行しているのに、主人公を始め、周囲の人々がそれに気づいてないという、温度差のようなものが、とてもリアルに感じられ、もし、日本でゾンビディザスターが発生した場合のシュミレーションのような出来栄えになっています。

第2巻、ゾンビディザスターが本格化し、街中で大混乱が起きます。自分が襲われている事に気づかないまま死んでいくなど、漫画では、感染に巻き込まれた人間のリアリティあるリアクションがとても印象的です。

今まで英雄の人間ドラマに迫っていた格調から、いきなり大災害をありのままに映し出すパニック映画のような様相へと変貌していくので、「何が起きているんだ?」「これからどうなってしまうんだ?」という興奮や興味の持続性があります。

また、作中で登場する場所は、御殿場アウトレットモールを始め、現実の日本に存在する所が多く、実際の写真をトレースした背景で描き、かつ“見開き”を多用、画面外から唐突に飛来してくる物体やゾンビを描くことで、ダイナミックな画面を表現しており、『漫画』という形式から逸脱し、実写映画を観ているような気分にさせてくれるのです。

 

原作の魅力をまとめると、

・ゾンビディザスターが発生するまでのリアリティの積み重ね

・人間が襲われた時のフレッシュなリアクション

・トレース背景や見開き等を使った、漫画から逸脱した「映画的な」見せ方の工夫

ということになります。

 

今回の映画は……

・2時間で物語をまとめなくてはならいため、ディザスター前の描写はほとんど省略

・ゴア描写は頑張っているが、フレッシュさは無い

・漫画でしたからこそ映えた映画的な手法は、実写映画としては魅力にならない

という結果になりました。

 

「キャラクターの見た目が似てるよ!」という声が多いようですが、それってそもそも重要なのかな……?

一番大事なのは、原作が持つ面白さやテーマの「キモ」じゃないのかな。

それに、確かに大泉洋演じる鈴木英雄は似ていると思ったけど、女性キャラクターはまるで違う。

早川比呂美も、

本田つぐみも、

黒川徹子も、

原作では決してわかりやすい美形としては描かれていないのに(早川比呂美だけは、連載が続くにつれどんどん顔が可愛く変わっていくけど)、それぞれ演じるのが、

有村架純、

長澤まさみ、

片瀬那奈って……。

大人の事情だから仕方ないにしても、恋人役の黒川徹子だけは美形にする意味がない。あんな綺麗な彼女が居たら、英雄の負け犬感が損なわれてしまうじゃないか!

 

主人公の職場仲間である「三谷」の扱いも良くない。

映画化するに辺り、三谷の人物描写やエピソードを削るのは仕方ない。それでも、映画内でキャラクターに整合性が無いのはどうだろう?

ドランクドラゴン塚地演じる三谷(原作漫画では、映画監督の三谷幸喜まんまの顔)は、ゾンビディザスターが発生して「これからは俺たちの時代だ!」と奮起していたのに、その直後に「あいつらみたいにはならないぞ!」とカッターで自害してしまう。

 

富士の樹海で早狩比呂美と二人で逃げる場面も無駄に長い。

物語的にさほど重要じゃない筈で、あんな所に尺を使うくらいだったら、別の場面に使った方がいい。ただでさえ物語を映画内にまとめるのは大変なのに。

 

アウトレットモールの場面も、もっと工夫が必要。

食糧庫で皆がカップ麺などを必死に探す中、主人公だけが猫缶を探す所は面白かったです。しかし、せっかく映画化するのであれば、原作では描かれなかったモールでの「ドーン・オブ・ザ・デッド」ばりの楽園を描いて欲しかった。

また、ロッカーに閉じこもりながら、仲間を助けに行くか逡巡する場面は良かったです。助けにいこうとするとゾンビに噛まれてしまう想像をする所がグッド。ただこの場面は、ゾンビに襲われる想像を、もっとバリエーション豊かに執拗にやっても良かった気がします。それこそ「ショーン・オブ・ザ・デッド」で、主人公たちが逃走プランを何度も練っていたみたいに。

最後のゾンビとの攻防もまるでつまらない。

ショットガンをただ左右に向けて発砲しているだけなんて。もっとモールならではの高低差とか遮蔽物を活かしたアクションが欲しい所です。どうでもいいっちゃどうでもいいんですが、サンゴの最期も意味不明。「あいつらと約束したのによぉ」みたいなセリフを言いますが、おまえ、そんなキャラだったっけ?悪役から改心するにしても唐突すぎる……。

前述した通りゴア描写は頑張っているし、監督の手腕によって救われている所もあると思いますが、やはり、原作の表面的な部分をなぞった凡庸なゾンビ映画になっている感は否めません。みんながこの映画を応援するのは、日本に碌なゾンビ映画がないからという理由もありそうですね。

私がオススメできるのは、友松直之監督の「ゾンビ自衛隊」か、竹中直人監督の「山形スクリーム」くらいですかね。

 

ではまた。