映画評:【ホステル】が魅せる痛みと快楽のアンビバレンツ
こんにちは。
杵蔵(きねぞう)です。
今回紹介する作品はこちらになります!
ホステル
制作:2006年/アメリカ
監督:イーライ・ロス
出演:ジェイ・ヘルナンデス
:デレク・リチャードソン
:エイゾール・グジョンソン
:ヤン・ヴラサーク
:バルバラ・ネデルヤコーヴァ
rating:85点
ストーリー
バックパッカーをしながら、ヨーロッパ各地を旅するパクストンとジョシュ。やがてアイスランド人のオリーが加わった一行は、スロバキアの田舎町に、あらゆる快楽を提供するホステルの噂を耳にする。早速向かった三人組は、そこで夢のような一夜を過ごすが……。
レビュー
東欧スロバキアを舞台に、秘密拷問殺人クラブに囚われてしまった青年たちの、身の毛のよだつ悪夢を描く。
当たり前ですが、ホラー映画にはお膳立てが必要不可欠。物語の序盤には、登場人物の性格や関係性、生活感を描写することで、観客をキャラクターに感情移入させる必要があります。それによって、その後起きる彼らの悲劇に、観客は「他人事ではない」と怖がってくれる訳です。そういった意味で、本作「ホステル」は実によく出来たホラー映画に仕上がっていると思いました。
映画前半はほとんどロードムービーの体をなしていますね。三人の若者の旅の目的というのが、とどのつまり買春で、ヨーロッパの各地を自堕落に放浪していきます。観る人によっては少し退屈に映るかもしれませんが、この前半をきちんと描写しているからこそ、その後に控える地獄のようなひとときが、フリーフォールのようにストンと垂直落下で味わえるのです。
前半、失踪した仲間からメールが送られてくるのですが、その文面とか、画像とか、あるいは携帯電話そのものがもつ当時の解像度ゆえの武骨な無機質感が、いや~な恐怖を煽ってきて、僕は大好きでした。
そして何より、舞台として描かれるこの秘密拷問殺人クラブの会員たちは、普段はフツーの人間たち、というのが恐ろしいですね。つまり、レザーフェイスや、ジェイソンのような、辺境の奥地に生息する「怪物」ではないのです。同じく現代社会の文明を共にしている筈なのに、コミュニケーションの取れない断絶の恐怖が、この映画には沢山詰まっています。つまり、あの恐ろしい人々は、あなたの隣人でもあるかもしれませんよ、というハッタリもきいている訳ですね。
東欧の持つミステリアスな雰囲気と、痛みに満ちた悪趣味な演出が満載ながら、どこか爽快な面も持つ、スプラッターホラーの傑作。
ではまた。