きねぞう

映画の感想や関連記事を載せていくブログです。

映画評:【君の名は。】『秒速5センチメートル』との意外な共通点

 

こんにちは。

杵蔵(きねぞう)です。

 

今回は、流行に便乗して、あのメガヒット作の感想を述べたいと思います。

 

 

君の名は。

製作:2016年/日本

監督:新海誠

出演: 神木隆之介

  :上白石萌音

  :市原悦子

  :谷花音、

  :てらそままさき

rating:80点

 

 

ストーリー

東京の都会に暮らす男子高校生・立花瀧、岐阜県の山奥に住む女子高生・宮水三葉は、お互いが知らない場所で生活する奇妙な夢を見続けていた。「お互いの体が入れ替わっている」という事に気づいた二人は、連絡を取り合い奇妙な交換生活の日々を過ごしてゆくが……。

 

レビュー

昨年の2016年9月1日に、劇場にて鑑賞しました。

当初この作品についてはノーマークで、劇場CMが流れると、

「あ~、BUMP OF CHICKENの新曲また出たんだ」

という、誤解を含めた感慨しかなかったのです。

が、あまりにも人気のため、コレは劇場で観るという体験をせねば、と遅まきながら足を運びました。

当時、普段はガランとしている行きつけの劇場が、ほとんど満席に近かったのを覚えています。

 

さて、本作は……。

 

面白かったです。

「ここがおかしい」とか「ご都合的主義だ」とストーリーにの綻びについて触れる声も多いと思いますが、鑑賞中はそんなに気にならなかったです。

観終えて、「言われてみれば、そうかもな」ぐらい。そんなに目くじらは立ちませんでした。

 

私が素晴らしいと感じたのは、テーマの扱い方です。

新海誠の作品は「秒速5センチメートル」しか拝見していませんが、たぶんどの作品にも共通するテーマなのかもしれません。

 

それはズバリ、距離です。

 

①物理的な距離

②心理的な距離

③時間的な距離

この三つの距離をテーマにしていると解釈しています。

 

「秒速5センチメートル」では、

第一章:互いに好き合っているにもかかわらず、転校で離れ離れになってしまう。彼女に久しぶりに再会しようとする、主人公と彼女との物理的な距離。

第二章:遠く離れた彼女を想う主人公。それに対して、誰よりも主人公の傍にいて、彼に片思いしながらも、おそらくは成就しないであろう恋に苦悩する女の子。主人公と女の子の心理的な距離。

第三章:大人になり、別の女性とも付き合う主人公。しかし、あの頃の、初恋の女の子との思い出から抜け出せない。彼の中で時計があの日のまま止まってしまった。彼と世界との、時間的な距離。

という、距離について描かれた作品だと思っています。

タイトルも「秒速5センチメートル」っていう距離ですしね。

 

今回の「君の名は。」も同じなんです。

予告編を観た印象は、「なんでいまさら、転校生ネタをやるんだろう」と不思議だったのですが、「秒速5センチメートル」と比較することで、この距離というテーマが浮かび上がってきます。

 

①都会・東京に住む男の子と、田舎・岐阜に女の子の⇒物理的な距離。

②人格交換現象を通じて、互いに縮まっていく二人の⇒心理的な距離。

③3年という月日が二人を隔絶する⇒時間的な距離。

 

という風に解釈できると思います。

二つの作品のテーマは一貫している。

 

私はそれに感心しました。

普通「転校生」だけをやりたいのであれば、二人が入れ替わっていることに気づき、二人が初めて互いと接触を試みる瞬間をドラマチックに描くはずですが、本作はそうしていない。

その瞬間になると、RADWIMPSの曲が流れて急にPV風になり、ダイジェストっぽくなるんです。

そこは省略している訳ですね。

そこまでは前振りも同然で、後半にもっと大きな展開がある訳ですから。

こういったストーリーの構成は、非常にサービス精神に溢れていて好きです。

とにかく展開や情報量の密度が高く、飽きさせない作りになっている。

だから、所々でストーリーに粗があっても、気になさせない。

いや、気にさせない、というよりも好意的に汲み取って観てしまいました。

上映中、二人に感情移入して、彼らを応援するような気持ちで楽しむことができました。

 

私が感じた以外にも、きっと沢山の意図や工夫がなされている作品だと思います。

映画の好みはさておき、観てみる価値は間違いなくある一作でした。

 

邦画の未来は明るいですね。

「君の名は。」「シン・ゴジラ」を筆頭に、2016年の邦画は、類を見ない豊作年であったと言えます。

個人的には「ちはやふる」「リップヴァンウィンクルの花嫁」の方が、私の中でフィーバーしている状態ではありますが……。それはまた別の機会に述べたいと思います。

 

ではまた。

 

映画評:思い出の【学校の怪談2】

 

こんにちは。

杵蔵(きねぞう)です。

 

ホラー映画というのは、シリーズ化することで旨味を増します。

ということで、今回ご紹介するのは、前回に引き続き「学校の怪談」シリーズである、この作品です!

 

 

学校の怪談2

制作:1996年/日本

監督:平山秀幸

出演:野村宏伸

  :細山田隆人

  :前田亜季

  :岸田今日子

  :西田尚美

rating:80点

 

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はい。パンフレットもボロボロですね。

相当読み込みました。

おそらく、生まれて初めて買ってもらった映画のパンフレットです。

私にとってこのパンフレットは、聖書(バイブル)といっても過言ではなかったでしょう。

それでは、中身の方に移っていきましょう。

 

ストーリー

春休み。東京で塾の講師を務める小田桐理香は、生徒たちの合宿のため、故郷の村へ帰って来る。

しかし理香の弟でガキ大将の司はこれに反発。地元の少年グループと東京の塾生たちは対立してしまう。

合宿の最終日、肝試しをやることになった彼らであったが、塾生の一人である憲が学校の時計台に登り、時計の歯車にスニーカーを挟んでしまう。

時計は4時44分で止まってしまい、呪われた校舎の封印が解かれてしまった……。

 

レビュー

全国の少年少女たちを虜にしたジュブナイル・ホラーの第二弾。

監督は前作と引き続き平山秀幸がメガホンを取り、野村宏伸が主演を務めています。

古ぼけた校舎に生徒たちが閉じ込められ、多種多様なクリーチャー達に追い回される展開は前回と同様ですが、良い意味での荒唐無稽さ、コメディタッチが強い作品に仕上がっています。

 

登場人物の個性も相変わらず際立っていて、彼らの何気ないやりとりが実に微笑ましいです。特に前田亜季が演じる「コタツ出しちゃうぞ~」の女の子が印象的ですね。それに対する「お前ん家、床暖房じゃん」の返しも実にシュール。

 

1996年という時代を振り返ると、あのころはまだ世の中の全貌が見えない不思議な時代だったと感じます。

二年後には中田秀夫監督の「リング」が公開され、Jホラーブームが社会現象を起こす訳ですが、あのころ、我々は信じていたのではないでしょうか?

既知の科学では解明できない心霊的な存在、それを察知する超人的な力。説明しきれない神秘的な何かを信じたいという気持ちがあったのではないでしょうか。

昨今では心霊映像や都市伝説の特番など見かけなくなってしまいましたね。

摩訶不思議な空気が、あの時代には流れていたような気がします。

果たしてそんな昔が良かったのか、それとも今の時代の方が優れているのかはさておき、この映画は、世の中がそんな空気でしか造りえなかった不可思議な魅力を持っているのは間違いないです。

 

「所詮こども向けの映画」と一蹴するのは簡単ですが、どうか思い出して頂きたい。

子供のころ、夜の部屋の隅には、「何か」を感じませんでしたか?

一人寝付けないでいると、天井や部屋の奥にある暗黒を恐れませんでしたか?

何かを恐れる力。あの想像力が、間違いなく自分の感性を豊かにしてくれるのです。

 ではまた。

 

映画評:すべてはここからはじまった【学校の怪談】

 

こんにちは。

杵蔵(きねぞう)です。

 

誰にでも、忘れられない思い出の映画ってありますよね。

映画が好きな人にとっては、そのきっかけを作ってくれた作品があるものです。

 今回は私を映画好きにしてくれた大事な一作をご紹介します。

 

作品はこちら!

 

 

学校の怪談

製作:1995年/日本

監督:平山秀幸

出演:野村宏伸

  :遠山真澄

  :米澤史織

  :熱田一

  :岡本綾

rating:80点

 

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 はい。懐かしいですね。

パンフレットもシンプルでキャッチ―な表紙です。

うひひひひひひひひ……」という文字もイイ味出してます。

 

実はこのパンフレット、当時購入したものではなく、大学生の時に横浜の中古パンフレット市場で入手したものです。

公開当時の1995年、私は本編に登場する小学生ですらなく、3歳の未就学児でした。

3歳にパンフレットは早やかろう、という判断で購入をスルーされたようです。

ムリもありません。

しかしこの作品をきっかけに、映画の素晴らしさに触れた、大切な体験であることは間違いありませんでした。それでは、映画の中身について触れていきましょう。

 

ストーリー

一学期が終わり、銀杏ヶ丘小学校は明日から夏休み。友達とボール遊びをしていた瀬川翔太は、校庭にあったハニワを壊してしまい、知らずの内に呪われた旧校舎の封印を解いてしまう。そんな事情を知らない六人の生徒と一人の教師は、それぞれの事情から旧校舎に入ってしまうのだが……。

 

レビュー

その後1999年まで続いた怪談映画シリーズの第一弾にして、全国の少年少女を魅了したジュブナイル・ホラーです。

原作は常光徹の小説や日本民話の会のコミック。

本来、学校の怪談とは一つ一つのエピソードが連なった総称ですが、平山監督はそれらを古ぼけた木造旧校舎に中に凝縮させ、巨大なお化け屋敷というシュチエーションを造り上げました。

お化けは和風の怨霊というよりアメリカナイズされ、その造形は手作りの温かさが感じられるようなSFXであり、ファンタジーな要素が強いです。

子どもたちの演技がとても自然で、今見返しても、悪い意味での時代を過ぎた感じがありません。あの年代特有の空気感とか距離感を、見事に描いているからだと思います。

生き生きとしたキャラクター、リアリティの感じるセリフ、そして物語全編に流れるノスタルジーは、ホラー映画というよりも青春群像劇を観ているような気分にさせてくれます。

夏休み前に誰もが感じる、全てが輝くようなあの高揚感から、手汗握る一夜の大冒険。

この映画のおかでげで、私はホラー映画が大好きになりました。

また、何らかの原因で閉鎖的な空間に閉じ込められてしまい、お化けたちに襲われる中で成長し、互いに交流のなかった人物たちが、成長し、信頼関係を結んでいく、というシュチエーションも、大好きになりました。

毎年、夏になると見返したくなる作品です。

 

 ではまた。

 

映画評:『用心棒』よりも【椿三十郎】が好き。

 

こんにちは。

杵蔵(きねぞう)です。

今回、批評するのはこちらです。

 

椿三十郎

製作:1962年/日本

監督:黒澤明

出演:三船敏郎

  :仲代達矢

  :加山雄三

  :志村喬

  :田中邦衛

rating:80点

 

 

ストーリー

家老の汚職を糾弾しようと密かに団結する若侍たちが居た。ある日、森の中にある古い社殿で密談をしていると、彼らの元に家老の刺客たちが押し寄せ、命の危機を迎えてしまう。

そんな所にフラリと謎の浪人が現れ、剣の腕と機転でもって、刺客たちを退ける。感謝を告げる若侍たちに、浪人は「椿三十郎」と名乗るが……。

 

レビュー

「用心棒」の実質的続編。風来坊の浪人が、剣の腕と機転をきかせて悪人たちを裁いていく姿を軽快に描いた時代劇。

主演は、主人公三十郎を、引き続き三船敏郎が演じる他、ライバル役である室戸半兵衛を、仲代達也が演じています。

2007年に森田芳光監督がリメイクしたことでも知られていますね。ただ、あんまりリメイクの方は評判が良くないようです。

やはり、オリジナルが名作として名高いせいでしょう。主演である三船敏郎と織田裕二を比較すると、織田裕二にはハードルが高い役だったと感じます。

本作を観る前は正直、あまり期待していませんでした。

前作の位置づけである「用心棒」が個人的に好きではなかったからです。しかし、結果から言うと、まごうことなき傑作であると断言します!

「用心棒」は、畑三十郎なる浪人が、宿場町に根付いた二つの悪組織を、身一つで壊滅させていく内容ですが、今回の「椿三十郎」では、若侍たちという、観客目線のいわば「ワトソン役」が存在するため、三十郎の言動や強さがより、強調できていると感じます。

さらにいえば、志はあるがまだまだ未熟な「新兵」である若侍たちと、酸いも甘いも経験した「古兵」たる三十郎のバディ感が素晴らしく、若侍たちの成長も描けている所が秀逸です。

敵のライバル役である室戸半兵衛も、よりキャラクターとしての地盤がしっかりしたものになっていると思います。

終盤、椿の花が物語に登場し、ある重要な役割を果たすのですが、このシーンが見事。川に流れる白い椿がすごく綺麗なんです。白黒映画と敬遠せず観ていただきたい。というよりも、白黒だからこそ、白い椿が凄く映えている。一見の価値ありです。

全体の物語の骨格がしっかりとしていて、前作「用心棒」よりも娯楽度がパワーアップ。所々で「ハッ」となる映像場面もあります。黒澤明の入門作品としては、これ以上ない傑作でしょう。

 

ではまた。

 

映画の横道:巨匠・黒澤明の定宿

 

こんにちは。

杵蔵(きねぞう)です。

 

先日、伊豆に行ってきました。

帰りに、「御宿さか屋」なる高級旅館の前を通りました。

すると……。

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こんなんありました。

どうやら「影武者」や「乱」といった作品の脚本を、この宿で執筆していたようですね。

伊豆のような温泉街に逗留し、高級旅館で缶詰になりながら執筆。

文章を書くのが好きな人にとっては、一度は夢想してしまうシュチエーションではないでしょうか?

「これにさわるとしあわせになります」と書かれていたので、めいっぱい触ってやりました。

 

映画評:濃密な悲劇【蜘蛛巣城】

 

こんにちは。

杵蔵です。

今回批評する作品はこちらになります。

 

 

蜘蛛巣城

監督:黒澤明

製作:1957年日本

出演:三船敏郎

  :山田五十鈴

  :志村喬

  :久保明

  :太刀川洋一

rating:80点

 

 

ストーリー

戦国時代。勝ち戦の帰りに、蜘蛛手の森の中で迷ってしまった鷲津と三木。

そこで二人が出会ったのは、白髪の奇妙な老婆だった。

老婆曰く、今回の功績を讃えられ、君主からの褒美に、鷲津は北の館の主に、三木は一の砦の大将になると予言する。さらに鷲津には、やがて君主の治める蜘蛛巣城の主になるとまで言われるが……。

 

レビュー

シェイクスピアの戯曲「マクベス」を下地にした黒澤明の意欲作。

これは面白い。

老婆の予言が的中し、鷲津は次の予言も本当に実現するのではないかと考えます。

しかしそんなことを知らない君主は、鷲津の館にやってきて、館に泊まると言い出す。

「これは殿を殺し、城の主になるチャンスでは……いやいや殿には目をかけて貰った恩がある」と踏みとどまったりする、鷲津の葛藤が見事に表現されています。

鷲津をそそのかす妻を演じる山田五十鈴も、研磨された刃物のような尋常ならぬ気配を湛えていて、迫力満点。

君主を殺し、蜘蛛巣城の主になるのだと促すに妻に、最初は戸惑う鷲津だが、やがて決意を固めた時の、あの濃密なギラギラとした殺意。

観ていて思うのは、卓越した人間の描写力です。台詞や仕草、一挙一動にその人間の心を絶妙に表現されていて、これが問答無用に面白い。

予言する老婆が、これがえらく怖いです。そんじょそこらのホラーなんかよりもよっぽど怖いのです。

老婆の佇まいが、白黒の画面の中でも異彩を放っていて、確かに「この世ならざる者」を体現していました。

 

ではまた。

 

映画評:あらゆる影響を与えた【天国と地獄】

 

こんにちは。

杵蔵です。

今回も黒澤明の名作映画をレビューしていきます。

 

 

天国と地獄

製作:1963年/日本

監督:黒澤明

出演:三船敏郎

  :仲代達矢

  :香川京子

  :石山健二郎

  :山崎努

rating:80点

 

 

ストーリー

製靴会社の常務・権藤の屋敷に電話が掛って来る。

「お前の子供を誘拐した。三千万円用意しろ」という内容に家族は動揺するが、息子はひょっこり姿を現す。

ほっとしたのも束の間、誘拐されたのは部下の子供だった。しかし攫う子供を間違えたのにも関わらず、誘拐犯は依然として金を要求し……。

 

レビュー

エド・マクベインの小説「キングの身代金」から着想を受けて作製された、巨匠・黒澤明の名作。

娯楽映画としての一つの頂点であり、とんかつの上にカレーをかけてその上にハンバーグを乗せて卵でとじたみたいな、濃厚で贅沢な一作です。

身代金を払ってしまえば破産は確実、人生を棒に振ってしまうのは明らか。さらに言えば、いくら部下の子供とはいえ赤の他人です。

しかし誘拐犯の思惑通り、権藤は苦悩します。権藤だけでなく、子供も心配だが権藤に迷惑はかけられないと葛藤する部下。

権藤の人間味に次第に好感を持ち、捜査に情熱を燃やし犯人を憎悪する警察。卓越した人間描写に舌を巻きます。

さらに印象的なのは、本作の象徴的なシーンともいえる、列車での身代金引き渡しの場面。犯人の巧妙なトリックと駆け引き。この場面も本当にハラハラしっぱなしでした。

このシーンを撮影するために、列車が鉄橋に差し掛かる所で民家が邪魔だから二階だけを取り払ったとか、公開後にこの手法を真似した模倣犯が続出したなど、幾つかの逸話を残しています。

ではまた。