きねぞう

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映画評:少女のファンタジー【櫻の園】

 

こんにちは。

杵蔵(きねぞう)です。

 

今回紹介する作品はこちらです!

 

 

櫻の園

制作:1990年/日本

監督:中原俊

出演:中島ひろ子

  :白島靖代

  :宮澤美保

  :つみきみほ

  :岡本舞

 rating:80点

 

 

ストーリー

桜の散りかける季節、私立櫻華学園高校は今年も創立記念日を迎える。演劇部では、創立記念日恒例の舞台、チェーホフの戯曲「桜の園」の上演を間近に控えていた。しかし、前日に演劇部の三年生が喫煙で補導されたことから、上演中止の噂が演劇部の中で流れ始めて……。

 

レビュー

原作は吉田秋生の同名オムニバス漫画。開幕直前の舞台裏を中心に、上演中止の騒動に翻弄される彼女たちの心の機微と友情を描く。

監督の中原俊は、密室劇を描くのがとても上手いと思います。

一年後の91年に発表する「12人の優しい日本人」では、裁判員制度に選ばれた男女たちを一室の中で個性豊かに描いた訳ですが、今作はその主要人物が全員演劇部の女子高生であり、人物の描き分けはより困難なハズ。しかし、二十人近い演劇部の少女たちを、二時間にも満たない限られた時間の中できちんと描いているのが驚きです。

おそらく、部員たちの人となりや、バックボーンをきちんと設定しているのでしょうその描き方がとても優れています。演出が秀逸で、本当に彼女たちが私立櫻華学園高校という学び舎で過ごしているように、いきいきと描かれています。

朝、演劇部の部長と舞台監督の二年生のやりとりから、次第に部員が集まりだしていくのですが、その様子の中に、それぞれの登場人物の関係性や思惑がさりげなく散りばめられており、観客は、それらの描写の一つ一つから、この物語の背景や進行を快く類推していく事ができます。

なにより僕は鑑賞中この「作業」がとても楽しかった。限定された舞台の中で、少女たちの仕草や言動の意味が、物語が進むにつれて脳裏に拓かれていく。

そして何よりも、彼女たちの細やかな表情の動きや、紡ぎだされるセリフが、名状しがたい流麗な場面を映し出し、絶え間ない耽美の流露が心地良い。

それは、一つのスクリーンを常に眺めながら、ひたすら映画の世界に没頭し、考えを巡らせる、映画ならではの純粋な楽しさであると言えます。説明的な台詞や、安易な解説は、瞬間的な見せ場を求められるテレビなら許されると思いますが、映画では御法度だと僕は考えています。

毎年咲く桜は、いつも同じように見えるけれど、しかし、彼女たちにとっては二度とない瞬間であることは間違いでしょう。本作は、その一瞬を捉えた名作ですね。

ではまた。