映画評:全員、他人事じゃない!【桐島、部活やめるってよ】神木隆乃介がゾンビ映画監督を好演
こんにちは。
杵蔵(きねぞう)です。
今回は、この作品を紹介していきますね。
桐島、部活やめるってよ
製作:2012年日本
監督:吉田大八
出演:神木隆乃介
:橋本愛
:東出昌夫
:清水くるみ
:山本美月
rating:85点
ストーリー
学校一の人気者である桐島が、バレー部を辞めるらしい。それを知ったバレー部の部員をはじめ、彼の恋人や親しい友人、ひいては桐島と直接関わりのなかった生徒たちでさえ、混乱の渦に巻き込まれていき……。
レビュー
新進気鋭の若手小説家、朝井リョウが早稲田大学在学中に執筆したデビュー作を映画化。
バレー部の要であった桐島が退部を宣言し、半ば失踪に近い形で行方をくらませる。井戸に投げ込まれた石の様に、桐島の退部が、周りのそれぞれ事情や悩みを抱えた生徒たちに波紋となって広がり、お互い微妙な関係で保っていた人間関係が揺らぎだします。表面的に学園生活を過ごしていた彼らは、お互い否応なしに他人や自分と向き合う事になってしまうのです。
興味深いのは、事の発端である桐島が一切姿を見せず、彼の言動や人物像もすべて他の登場人物の伝聞のみで描いている点。登場人物の視点を変えた群青劇スタイルに時間軸をずらした映画の構造が、物語の性質とも符合し秀逸な工夫をみせていますね。
私が注目するのは、神木隆乃介が演じる前田涼也という主人公格の一人。彼は映画が大好きで、特にホラー映画の、それもカルトムービーに傾倒しているらしく、顧問教師にジョージ・A・ロメロ監督について熱を込めて話したりするような映画マニアなんです。
たまたま映画館に居合わせた同級生の女の子と映画の話になる場面が素晴らしいです。
映画にそんなに詳しくないであろう女の子との微妙な温度差、気まずい空気感がよく描けています。随所にいらん蘊蓄いれてくる所とかも最高です。
「タランティーノで何が好き?」
「あー、えっと何だろうな……タイトル忘れちゃったんだけど、人がいっぱい死ぬヤツ」
「いやいや、どの映画も結構死ぬよ~(嬉)」
などと、思わずはしゃいでしまう所など、オタク特有の挙動も上手く捉えています。私も「学校の怪談シリーズ」が話題に出たら、こんな風になってしまうかもしれません。
彼は映画部の部長も務めていてます。この映画部の部員たちというのが、学校の底辺に属しているというか、スクールカーストの最下層に居る者たちで、彼らの姿もきちんと描かれていたりする。この辺りの実在感が凄いですね。
古き良き青春を描いてきた今までの作品とは違い、あの時、私たちが学校で感じていた強固な同調圧力、スクールカーストを生々しく描いていて、ある種の青春に対するアンチテーゼも込められている、そんな気がします。
決して交わることのなかった彼らの人生が、ほんの一瞬交差する、瑞々しい名作です。
ではまた。