映画評:濃密な悲劇【蜘蛛巣城】
こんにちは。
杵蔵です。
今回批評する作品はこちらになります。
蜘蛛巣城
監督:黒澤明
製作:1957年日本
出演:三船敏郎
:山田五十鈴
:志村喬
:久保明
:太刀川洋一
rating:80点
ストーリー
戦国時代。勝ち戦の帰りに、蜘蛛手の森の中で迷ってしまった鷲津と三木。
そこで二人が出会ったのは、白髪の奇妙な老婆だった。
老婆曰く、今回の功績を讃えられ、君主からの褒美に、鷲津は北の館の主に、三木は一の砦の大将になると予言する。さらに鷲津には、やがて君主の治める蜘蛛巣城の主になるとまで言われるが……。
レビュー
シェイクスピアの戯曲「マクベス」を下地にした黒澤明の意欲作。
これは面白い。
老婆の予言が的中し、鷲津は次の予言も本当に実現するのではないかと考えます。
しかしそんなことを知らない君主は、鷲津の館にやってきて、館に泊まると言い出す。
「これは殿を殺し、城の主になるチャンスでは……いやいや殿には目をかけて貰った恩がある」と踏みとどまったりする、鷲津の葛藤が見事に表現されています。
鷲津をそそのかす妻を演じる山田五十鈴も、研磨された刃物のような尋常ならぬ気配を湛えていて、迫力満点。
君主を殺し、蜘蛛巣城の主になるのだと促すに妻に、最初は戸惑う鷲津だが、やがて決意を固めた時の、あの濃密なギラギラとした殺意。
観ていて思うのは、卓越した人間の描写力です。台詞や仕草、一挙一動にその人間の心を絶妙に表現されていて、これが問答無用に面白い。
予言する老婆が、これがえらく怖いです。そんじょそこらのホラーなんかよりもよっぽど怖いのです。
老婆の佇まいが、白黒の画面の中でも異彩を放っていて、確かに「この世ならざる者」を体現していました。
ではまた。