映画評:「わが身一つ」【乱】
こんにちは。
杵蔵(きねぞう)です。
今回評するのはこの作品です。
乱
監督:黒澤明
制作:1985年日本
出演:仲代達也
:寺尾聰
:根津甚八
:隆大介
:原田美枝子
rating:70点
ストーリー
戦国時代。
齢七十を迎えた一文字家の主・秀虎は、家督を三人の息子達に譲り、自らは隠居する決心をする。
しかし新たな領主の長男には、手のひらを返されたように邪慳に扱われ、次男の城を訪ねるが、そこでも冷遇を受ける。
やがて秀虎は謀反者として孤立し、彼の居城には息子達の連合軍が押し寄せて……。
レビュー
荘厳にして悲哀。
黒澤明が自らのライフワークと称し、シェイクスピアの「リア王」を下敷きにした、豪華絢爛な戦国絵巻。
乱世を生き抜き、老境に至った王の悲劇と、骨肉の争いを続け殺し合いに明け暮れる人間たちの業を描く。
晩年のカラー作品はファンの間でも評価の賛否が分かれる所です。
私としては、本作は長い白黒時代から夢想していた筈の、黒澤監督の色彩感覚が爆発したように発揮されていると感じます。
特に中盤、三男の三郎の旧城に身を寄せた秀虎たちを、長男・次男の軍勢が取り囲み、秀虎の忠臣を虐殺していくシーンでは、多彩色ならではのおぞましい惨劇が描かれています。
また、合戦描写も秀逸です。
『影武者』の終盤の合戦のシーンでは、織田と武田、両者の陣営が一つに収まる画がなく、お互いが直にぶつかり合う場面がなかった。
相互の位置関係、軍勢の交わりが描かれていなく、合戦の戦闘描写としては大いに不満が残っていたんです。
本作ではそれが解消され、類を見ない大合戦が繰り広がれているので、こちらとしても溜飲が下がる仕上がりです。
黒澤監督はシェイクスピアをモチーフにすることが多分にあります。
学生時代にはドストエフスキーを耽読していた時期もあるそうで、高い文学の素養を持ち合わせていることが伺えます。
本作でも、彼の倫理観や宗教観が覗け、骨太なヒューマニズムに徹した超大作に仕上がっており、まさに巨匠・黒澤明監督の総決算と言えましょう。
ではまた。