きねぞう ~気ままに映画評~

映画の感想を述べていくブログです。

【映画評】:悪い奴ほどよく眠る

 製作:1960年/日本

監督:黒澤明

出演:三船敏郎森雅之香川京子三橋達也志村喬              

 

■ストーリー

公団汚職事件の口封じに殉じようとした和田は、公団副総裁の秘書・西に命を助けられる。

西はかつて同じように父を死に追いやった公団に復讐を果たすべく、戸籍を変え、公団に潜り込んでいたのだ。

和田を仲間に取り込んだ西は、相棒の板倉と共に、巨悪の陰謀に挑むが……。

 

■レビュー

 シェイクスピアの「ハムレット」を下敷きにしたと言われる、黒澤明監督の社会派サスペンス。

父を殺された男が、悪を眠らせまいと立ち向かう。

重厚なストーリーを構えながら、どこか軽快なテンポを挟みこみ、復讐劇を娯楽たっぷりに描いた名作です。

映像に妥協を許さぬ巧みな表現技術で知られる黒澤明ですが、人間の普遍的な葛藤や心の叫びを真摯に描いているからこそ、彼の映画は多くの人に愛されているのだと感じます。

僕が特に心を動かされたのは、巨悪の権化である公団副総裁・岩淵の家庭でのシーンです。

庭でバーベキューをしている岩淵が、エプロンをかけ、娘のために、焼いた肉に「ふーふー」と息を吹きかける場面。

私利私欲のために人を死に追いやる悪人が、娘には愛情を向ける優しい一面を持っているのです。

アウシュビッツの悲劇を記した「死の国の音楽隊」というユダヤ人の手記に、似た逸話があります。

囚人をガス室で殺し、死体を物のように焼却したナチスの将校や家族たちが、土曜に行われるコンサートに集まり、そこで演奏される音楽に感動するのです。

人間は、身震いするほど残酷な事に手を染めながら、同じ心身の中に、美しい景色や音楽に感動し、誰かを労わる優しさを宿している。

それは「この世に悪い人はいない」という意味ではありません。

人は善と悪には二分できない、矛盾だらけを抱えた複雑極まりない宇宙であること。

それを、物語を阻害しない範囲でさりげなく描く、黒澤明はやはり天才です。

評価:A-